ここは地の国 

豊富な鉱物により工業が栄えたこの国には、
資本家が育ち、中でも永く生きる宝石亀の元には
国を動かすほどの富が集まった。

十万年の寿命をもつ彼は、誰よりも自らの住む土地を愛し、
惜しみなく富を注ぎ産業を発展させ、地の国をどこよりも豊かな国へと作り上げた。

だが、彼のもとに一人の学者が来て言った。

あと50年でこの国の金属鉱脈鉱床は、全て底をつくでしょう。
石油・天然ガスは30年、石炭は80年…

その報告を聞いてわずか三か月足らず。
彼は100人を超える養子のうち、一番優秀な子を国の首領に据えた

(宝石亀の富豪)

水も土地も化学物質に汚染されたこの国は、
今日も眠らない夜を楽しんでいる。
足元のさらにその下にうごめく約束された破滅に人々は気づかない。

養父がその富を注いで作る「兵器」だけがこの国の唯一の希望。

金属と燃料を確保するのだ。
そうでなければこの不毛の地に明日はない。
高い技術力を誇る我が国に従属するのは隣国にとっても
不幸ではあるまい…

かの国の人々が独自の文化を営んでいるというのは理解している。
その素晴らしさも…
だが、今私の目の前にいる人々が飢え苦しみ、
この国が亡びるのがわかっているのに何もしないわけにはいかない。

(独裁者(羊男))

もー!うるっさいなぁ!!

勝手に、好きに、自由に使えばいいじゃん。
あたしが発明したものでアンタらが幸せになるも不幸になるも
そんなの知ったこっちゃない。興味ない!

作って欲しいものがあったら
研究資材と没頭できるだけのお金用意してくれれば
誰にでも何でも作るよ?それがあたしの仕事だもん。

でも!
出来上がった「物」について、あたしに責任を押し付けないで!

(発明家のノーム少女)

え?お姉ちゃんについて?

お姉ちゃん、何でも作れるんだよ?
僕たちの自慢のお姉ちゃんなんだぁ!

工房の少年たちがキラキラした瞳で、先ほど初対面の僕に怒鳴り散らして
部屋を出て行ったノームの少女を賛美している。

別に責めたつもりはなかったんだけどなぁ
彼女が発明し、この工房で作られた兵器について、
「威力は抜群!一発で敵の小隊を全滅させたらしいですよ!」
って言っただけなんだけどなぁ…

困ったなぁ。
明日までに新兵器の開発秘話を交えた軍備賞賛記事を仕上げて来いって言われてるんだけど… はあ。

…….

ああでも。
「資材とお金を用意すれば誰にでも何でも作る」か。
この情報は、高く売れちゃうかも!

(新聞屋で情報屋の少年)

illustration あづま十字


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